プライベートクラウド&シンクライアント 何が違うのか

◆ 自分でもつ高性能プライベートクラウドで変わる世界

最近まで大手企業でしか利用出来なかった「プライベートクラウド」が10万円程度でも利用できるようになり、個人でも導入できるようになりました。プライベートクラウドがどのうようなものなのか、ご紹介します。

      プライベートクラウド&シンクライアント
      少人数で1台のサーバーを共有する「プライベートクラウド」は従来の「クラウド」とは以下の点で大きく違います。
      小型サーバーを事業所や自宅に設置する
      一人あたりが使えるCPU、メモリが大きい
      設置場所近くにいる場合インターネットを通さずに利用でき高速
      第三者にデータを預けない

以下、プライベートクラウドで出来る主な機能と利用例を紹介します。


◆ ファイルサーバー(NAS)

ファイルサーバーとはデータを収める記憶媒体を持ったサーバーコンピュータのことです。NAS(ネットワーク接続型記憶媒体)とも呼ばれ、LANでネットに接続することで「外付け」のHDDのように利用できます。 この機能には通常の内蔵ハードディスクドライブや外付けハードディスクドライブと違い以下の特徴があります。

      1. 複数のPCでフォルダを共有できる
      2. ユーザーごとにアクセスできる領域を指定できる

ファイルサーバーは次のような使い方ができます。

      a) いままでメールやUSBメモリでやり取りをしていたデータをファイルサーバー内で共有することができる
      b) PCのバックアップ用記憶媒体として利用できる
      c) PCが故障したりPCを買い換えてもファイルサーバーにデータを保存していればデータ移行の必要がない
      d) 一部ファイルサーバーやNASには出先からインターネット経由でデータを利用できる機能がついている


◆VPNゲートウェイ

VPNは「仮想専用線」と言う意味です。専用線を利用すると第三者が入り込めないので非常に安全に情報をやり取りできます。しかしコストが問題となります。そこでインターネット回線の中に仮想的な「専用線」をソフトウェア的に作り、データをその中を通して利用するのが「VPN=仮想専用線」です。安価なインターネット回線を利用するので低コストが実現できるのです。 VPNにはいくつかの種類があります。

      1. クラウド型
      一度第三者のサーバーを経由して利用するVPNです。導入が簡単で、比較的低コストで利用できます。
      2. ルーター型
      ルーターのVPN機能を利用し、おもに拠点間のVPN接続をするタイプです。簡易的なVPNであれば数万円のルーターで構築可能です。
      3. VPNゲートウェイ型
      「ゲートウェイ=入り口」という言葉から想像できるように、ある拠点に設置したサーバーがVPN機能を持ち、外部からはそのサーバーに「VPN接続」をし、社内や自宅内のネットワークに接続します。

何れの方式においてもVPN接続したPCやスマホ、タブレットは世界中どこにいても社内や自宅内にいるのと同じ状態になります。(専用回線で直接接続しているのと同じ状態)通信が高度に暗号化されているだけでなく、外部にいても社内、自宅内にいるのと同じ状態になります。


◆シンクライアント(仮想デスクトップ)

シンクライアントと仮想デスクトップという聞きなれない言葉はほぼ同義です。これは

手元のPCやタブレット、スマホをモニタ・ディスプレイとしてのみ利用する

というものです。

シンクライアントシステムには2つの要素が必要です。

      1. モニタとして利用する「(シン)クライアント」
      例:PCやタブレット、スマホなどの「デバイス」で一部のシステムを除きOSの種類を選びません
      2. サーバー
      このサーバーの中には仮想的なPC(パソコン)が複数動いています。1台のPCに複数のWindowsが動いている場合もあります。しかし通常、このサーバーにはモニタ(ディスプレイ)やキーボードは接続しません。

シンクライアントの「シン」は英語でThin = 薄い、という意味です。シンクライアント側はモニタやキーボードなど、最小限の機能のみを利用し、サーバー側にはデータやアプリケーションソフトなどすべてを搭載します。

      手元で利用するクライアントにはデータや表計算などのアプリを置きません
      モニタ機能以外のアプリをはじめ全機能、全データはサーバー側に置きます
      接続はVPN経由で行います

ネットにさえ接続できればシンクライアントはいつでもどこでも、PCやタブレットから「同じ」画面に接続でき、同じデータを見ることができます。当然同じアプリを利用できます。(同じ画面を見ているので当然です)

持ち運びが出来るモニタを実現するのがこのシンクライアント・仮想デスクトップ機能と言えます。


◆ 学校・塾で使う

学校や塾の先生は生徒の成績など、個人情報を扱います。さらに授業で利用する資料を学校・塾だけでなく自宅で作成・編集することも多いでしょう。 そこでVPNやシンクライアント機能が役に立ちます。

従来、これらのデータは

      USBメモリなどを介してPCにコピーする
      またはDropboxやOneDriveなどのクラウドサービスを使う

ことが多かったでしょう。しかしプライベートクラウドサーバーとシンクライアント機能を利用すると使い方が一変します。

      1. データやアプリ(表計算など)はサーバー側にすべて置きます
      2. 結果としてデータだけでなくアプリも持ち歩く必要はありません
      3. それらのデータやアプリを利用する場合は、プライベートクラウドサーバーにPCやタブレットなどから接続し、「モニタ」としてそれらを利用します

電車にPCを置き忘れても問題はありません。持ち運ぶのはモニタ機能だけだからです。さらにサーバー内のすべての資料にアクセスできます。データもアプリも「一元管理する」ことが可能となります。


◆ 営業マン

ある会社での実例です。その会社では営業マンが現場に出向き、お客様から詳細を聞き見積を作成するという仕事をしています。しかし正式な見積書には社判が必要で、郵送することを求められます。 そこで

      1. VPN接続し、会社に設置したプライベートクラウドに接続
      2. PCやタブレットでシンクライアント(社内にあるサーバーで動作している自分専用の「Windows PC」)に接続
      3. 見積作成
      4. 印刷(印刷結果は社内のプリンタに出力される)
      5. 同僚に捺印、郵送を依頼

各地を回って営業をする彼にとっては、敏速に業務に対応できるようになりました。

大切な顧客の情報を持ち歩かなくてすむ点も重要な要素です。


◆ 税理士の場合

税理士は顧客企業の情報を多く持っています。さらにそれらの情報を顧客とやり取りする必要があります。近年多くの場合それらのデータはデジタル化されています。

ある税理士の場合、これまでそのような情報をUSBメモリやメールでやり取りをしていました。さらに税務調査などがある場合には必要なデータをノートPCに「コピー」して顧問先企業へ出向く必要がありました。

しかしプライベートクラウドを利用することでこれらを一切行わず、完全にデータを扱えるようになりました。顧客企業先でも事務所にあるすべてのデータにアクセスできます。


◆ メールがこう変わる

多くの方たちがクラウド型のメールを使わない限り各PCやスマホ、タブレットにメールソフトを導入し、それぞれ送受信メールを各々保存していることでしょう。一方クラウド型を利用するとデータは一元管理され、いつでもどこでも送受信したメールにアクセスすることができます。

一方プライベートクラウドを利用するとその一歩先へ行くことができます。すなわち、送受信したメールのデータだけではなく、メールソフトそのものも一元管理できます。

プライベートクラウドサーバー内で「実際に動いている」ソフトをPCやタブレット経由で「見る」ことができるので、完全、完璧なメールの一元管理ができます。

GoogleのGメールではデータを一元管理し、それにアクセスするメールソフトは各PCやスマホ、タブレット内で動いています。場合によってはその閲覧ソフトとしてブラウザを利用します。一方シンクライアントではモニターを持ち歩くので、実体は常にサーバーの中にあります。この点が大きく異なります。

プライベートクラウドでメール機能を利用するとその便利さから、これら機能を手放せなくなることでしょう。


◆ USBメモリはいらない

クラウドにデータを預けるとどのデバイスからでもアクセスできるのでUSBメモリが必要なくなります。しかしプライベートクラウドサーバーを持つとメール同様、それよりも一つ先の世界を経験できます。

プライベートクラウドサーバーと通常のクラウドの違いは

      1. プライベートクラウドではデータを他人に預けない(契約書や経理データを第三者に預ける代わりに、自分のサーバー内に保存します)
      2. プライベートクラウドサーバー内にはそれらデータを閲覧するアプリケーションソフト(例 表計算ソフト)も共に入っていて、それらソフトもサーバー内で動いています

例えば表計算用のデータを複数のPCやタブレット、スマホで編集するとします。この場合

      従来のクラウドではデータを一度ダウンロードし、手元にあるPCやスマホで動くソフトで編集します。(場合によってはブラウザで編集できます)
      一方シンクライアント機能をもつプライベートクラウドを利用すると、データもアプリケーションソフトもサーバー内にあり、ソフトもそのサーバー内で動いているので、手元にあるPCやスマホ、タブレットはあくまでもモニターとしてのみ利用します。よって、データを手元にダウンロードする必要がありません。


◆ ある社長の週末

プライベートクラウドサーバーを導入しシンクライアントを利用しはじめたある会社の社長の実例です。東京都青梅市にあるその会社では毎週月曜日朝までにその週の生産計画を作ります。その計画には専用ソフトと社内にあるデータが利用されます。

プライベートクラウドサーバーを導入するまで、社長は必要に応じて週末に会社まで出向き、専用ソフトを利用して次週の生産計画を立てていました。しかし現在は自宅から会社のプライベートクラウドサーバーにアクセスし、すべての作業を自宅で行なっています。往復30km近くの移動が必要なくなりました。

社長の奥様は経理を担当していますが、主婦業も兼ねているので自宅から会社のプライベートクラウドにアクセスし、給与計算などをおこなうことが出来るようになりました。


◆ ソフトウェア開発者なら

ソフトウェア技術者にとって自分で持てるクラウドサーバーは夢のような存在です。

      1. 自由に手を加えられる
      2. 開発環境がすべて揃っている(データベース、各種サーバー機能、自由に使えるリソース)

従来のクラウドはサービス提供者が完全にコントロールする世界です。しかしプライベートクラウドサーバーを自分でも持つ、ということは自らサービス提供者になることなのです。 そもそもパソコンの世界は管理者のコントーロールから解放され、自由な世界を創り上げるものでした。しかし近年その流れは真逆に進んできたと言えます。ソフトウェア開発者の創意工夫を生かし、新しい世界を築くことが可能な世界が「プライベートクラウド」とも言えるでしょう。